現 実
1945年6月5日、神戸市西宮区、垂水区が爆撃を受けた。
折り重なった焼死体を避けるように、生存者が行来する。
この日の神戸市にならんだ焼死体。
偵察写真には決して写る事のない現実を教えてくれる。
撮影場所は東京と思われる。 この母親は死の間際まで、炎に包まれ
ながらも愛児を離さなかったのだろう。 背にはその痕が見て取れる。
このような現実は、とても受け入れがたい悪夢である。
次のような逸話もある。 ある焼死体を取り除くと、その下には小さな
穴が掘られており、赤ん坊が母親であろうその焼死体の乳房をつかんでいた。
赤ん坊は無傷だったが、酸欠で死亡していた。 焼死体の両手の爪は1枚も
無かったと言う。 逃げ延びてきた母親がもはやこれまでと、両手で地面を
掘り、赤ん坊を入れて自分が覆い被さったものであろう。
どのような状況でも我が子を守ろうとする母親の愛情。
それすらも焼き尽くす現実を、いったいどう表現すれば良いのだろうか。
1945年8月6日、広島にて撮影された一葉。
わずかに、人間であったことが確認できるだけである。
頭部の上に撮影者とおぼしき影が見える。 いったい、どんな気持ちだっただろうか。
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