物理的に見る特攻の効果


次に戦術面から見てみよう。
爆弾単体が当たった場合の威力と、飛行機ごと爆弾が当たった場合の
威力についてであるが、この効果も大いに疑問が残る。
結論からいえば、爆弾単体が当たった場合の方が威力が大きいのである。
爆弾の、と言うより、実体弾の破壊力は衝突速度と質量に大きく左右
されるのは論を待つまでもないであろう。
投下方法にもよるが、衝突速度は爆弾単体の方が速いのである。
特に急降下爆撃と、零戦の水平特攻をみた場合、2倍以上も急降下爆撃
の方が早いのである。


有名なこの一葉に写っている零戦は、この直後、ミズーリの分厚い舷側
装甲に弾かれて海面に落下する。
戦艦の舷側装甲は重量1.5t、初速700m/s以上の巨弾に耐えうる
設計になっている。
この時、零戦の速度は約250km/h程度と思われる。
爆弾重量500kg、秒速70mで、舷側装甲を貫ける訳がない。

また、爆弾が直撃する前に機体が先に激突する為、どうしても機体の
破壊が起こり、運動エネルギーを減殺してしまい、いよいよ速度が
落ちるのである。
機体ごと当たれば、たしかに「弾丸」の質量は増える。
が、機体の質量分を破壊力換算しても、爆弾の破壊力には及ばない。
その爆弾の威力が、逆に減少してしまうのであるから、結果として
破壊力は低下したと言わざるおえない。

特攻に於いては、パイロットが最後まで機体を操るために、命中率は
いくらかは上がるかも知れない。
ならば、機体接触の1秒前まで爆弾投下を待たせ、最後の瞬間に投下
させ、離脱させるくらいはできるはずだ。
1秒と言えば短く感じるが、戦場に於けるパイロットにとっては十分
な時間である。 ましてや命のかかった1秒だ。
たとえその後に大半が撃墜されたとしても、1機でも帰ってくれば
次の戦力になる。 機体がダメでも搭乗員と言う貴重な戦力が残る。
そして破壊力も向上するとなれば、戦術的に見ても特攻は間違った
選択である。

映像でよく見かける、空母の正面から突入していく飛行機が艦橋後部
飛行甲板に突入し、紅蓮の大火球を起こさせるシーンが目に浮かびます。
あの火球は爆弾の爆発では無く、爆発の大半が飛行機に残っていた
燃料に引火したものと考えても差し支えありません。
つまり、実質的な「破壊力」は無いのです。
当然、甲板に配置されている人員にとっては致命的な恐怖でしょうが、
本来の目標である航空母艦他の大型戦闘用艦艇にとっては、たいして
「痛くない」ものなのです。
あの火球を望見した友軍が、こう報告するのです。
「空母1隻撃沈!」
そして気をよくした上層部が「いけいけ、どんどん。」と命令を出す。
これを上層部の無能と言わずに何と言おうか?

結論として、戦略的にも、戦術的にも、物理的にも、特攻は戦闘方法
としては愚策の中の愚策であると言うことになる。
ちなみに、一般的な250kg爆弾では空母の舷側装甲に傷すら
付けられない事実を、軍の上層部は実験により確認していた資料が
存在します。
日本軍が建造した軽空母「阿蘇」で、実際に爆弾を激突させる実験を
実施しているのです。

命じられるままに、敵に向かって行った全ての先人に、頭を垂れる。

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