名機の弱点を見る
・D型、座り悪し。
上の画像はP51Dの初期量産型である。
こちらは改良された決定版P51Dである。
どこが違うかわかるだろうか?
良く見て頂きたいのは、垂直尾翼の前である。
初期量産型まではC型までの胴体を受け継いで、風防だけを改修した
為に、胴体全体が生み出す「左右への安定性」が不足してしまたのである。
垂直尾翼前方に取り付けられた部分(下図赤枠)をドーサルフィンと言う。
これが無かった為に、特殊飛行や急降下(突っ込みと言う)時に機体が
左右にブレると言う現象が報告された。
そこで、急遽改良されたのである。 言ってみればD型の初期量産型は
欠陥機ではないにしても、特殊飛行時に欠点があったのである。
しかし特殊飛行時にブレが起こるようでは、戦闘機としては落第である。
特に突っ込んだ時は射撃をする場合が多い。 肝心の射撃時に射点がブレて
しまっては、話しにならないのである。
ただ、アメリカの対応は素早く、報告と同時にドーサルフィンを追加。
既生産機の全機にフィンキットを支給し、後付けを行って、この欠点を完全に
解消している。 マスプロ大国、さすがである。
・液冷エンジンの宿命。
P51が日本軍と初めて会敵した時、その相手は一式戦「隼」であった。
P51側はまだC型であったが、性能的にはD型と変わりない性能である。
しかし「隼」が装備している、わずか2丁の12.7mm機銃の一撃を浴び、
一番機の飛行団長機が火も噴かずあっけなく撃墜されてしまった。
パイロットは脱出したが、撃墜の原因は明らかに腹部に装着されたラジエター
(水冷却器)への被弾である。
撃墜された当事者の大佐(!)さんは「ラジエターのアクシデントで飛行不能
に陥った。」と主張したと伝えられる。
無論、こういった撃墜事例は希で、滅多にあるものではない。
しかし、日本軍との初会敵時に液冷機の宿命が現れたのは皮肉である。
液冷エンジンを装備している以上、絶対にラジエターの装備が必要であり、
P51はその装備位置やその周辺の処理も、完璧に近い出来上がりである。
しかし、そのラジエターや冷却水パイプなどに一発被弾すれば、冷却水が
漏れだし、あっと言う間にエンジンが焼け付く。
その一点に関してはP51と言えども例外ではなかったのである。
・ターボ過給器の未装備
第2次大戦を戦ったP51シリーズは、いずれもターボ過給器を装備していない。
10000m近くを飛ぶ爆撃機に随伴するにはターボ過給器の装備が絶対に必要
であるのだが、P51に装備されたのは2段式過給器だけであった。
P51と戦爆連合を組む際は、たとえB29であろうとも、P51の高度に合わせ
なければならなかった。
ただ、ターボ過給器を付けた機体が必ずしも高性能機とは限らない。
量産性、整備性、機体重量などを考えれば一長一短である。
相対するドイツ軍や日本軍の戦闘機が、ほとんどターボ過給器を装備していない
事を考えれば、それほどのディメリットにはならないと思われる。
それでも、戦爆連合時に随伴すべき爆撃機の高度を下げさせるのは、爆撃機の
長所を殺すことになるのではなかろうか?
ただ、爆撃機側にとっても、高度を下げれば燃費が良くなり、より多くの爆弾を
搭載できるようになる。 その上、投弾高度が低ければ命中率も良くなると言う
メリットが出てくる。 まったく皮肉な結果である。
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