急降下爆撃
ドイツの場合
日米両軍と比べて、明らかに突出して急降下爆撃を重用したのがドイツである。
空軍の幹部エルンスト・ウーデッド自ら、「急降下爆撃なら目標に爆弾を命中
させれるのに、何故わざわざ爆弾をバラ撒くような真似をしなければならない
のか?」と言っていた程で、唯一の4発重爆論者ワルター・ウェーベルが事故死
すると、もはや急降下爆撃以外は爆撃にあらず、と言った様相を呈する。
緒戦の電撃戦では、足の遅い砲兵の代わりを急降下爆撃機が肩代わりして
信じられない破竹の勢いで進軍できたが、制空権が確保できない戦場や、無理
な戦略的運用の結果の代償は高くついた。
特に歩兵達から恐れられたシュツーカは、低速で航続力も無く、敵戦闘機に
とっては好餌以外の何ものでもなかった。
後期、更なる性能低下のリスクを冒して37mm砲を2門搭載した型も実戦
配備された。 さすがのドイツでもイギリスの戦略爆撃を受け、ロシア軍が
進軍して来れば、急降下爆撃の限界を否応無く知らされる事になった。
日本が空冷エンジンや格闘戦闘機に固執したように、ドイツもまた急降下爆撃
に固執した。 この柔軟性の無さがダメだったのだ。
He177「グライフ」 全長22m翼幅31m全備重量27t乗員6名
ドイツ空軍首脳は、この四発大型機にすら急降下爆撃を要求した。
その他の場合
まず、イギリス。 当面の敵ドイツに目標となる強力な艦船は存在せず、
4発重爆の充実もあり、専用の本格的な急降下爆撃機は無い。
地上攻撃は、もっぱらロケット弾や緩降下爆撃を主用。
次に、ロシア。 こちらも専用の急降下爆撃機は無い。 地上攻撃には
「襲撃機」、今で言う「攻撃機」を装備して当たらせた。
IL−2「シュツルモビク」が代表例。
急降下爆撃の消滅
現在、急降下爆撃なる戦闘方法は消え去っている。
GPSやレーザー、TV誘導などを用いた精密誘導兵器の登場。
対地ミサイル、対戦車ミサイル、対艦ミサイル、もこれに含まれるだろう。
少なくともコンピューター計算された爆撃照準器があり、急降下して
対空砲火の中に飛び込む危険を冒す必要性が無くなっているのである。
太平洋戦争末期、高度を稼ぐ必要のある急降下爆撃は、米軍レーダーの
急激な発達により、日本軍にとって自殺行為となってしまった。
高度が稼げない状況での急降下爆撃など成立しない。
米軍にとっては、もはや急降下で捉えるべき目標もなくなり、陣地などへの
攻撃は戦闘爆撃機の緩降下やロケット弾で十分だった。 そしてそれは
急降下ほどの熟練を必要とせず、誰にでもできる攻撃方法だった。
ドイツにとっては最後まで固執した急降下爆撃に、結局は裏切られた。
大規模戦略爆撃の前に、急降下爆撃機は役に立たず。
少数の急降下爆撃機で数千のロシア陸軍を阻止できる道理も無かった。
1発の爆弾をピンポイントで命中させる重要性は、最近やたらと強調されて
いるが、「歴史は繰り返す」の諺通りにならなければ良いが・・・。
何よりも兵器や戦術が実戦使用されるような状況を作り出さないで頂きたい。
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