橘 花
補助ロケットの左右の同調がズレていたと言う記述も見たが、どうにも
そちらは怪しい。 状況から推測しても、強力な機首上げモーメントが
原因と考えられよう。
飛行試験前、橘花の補助ロケット装着担当の技術者が、
「補助ロケット作動中の機首上げモーメント時は下げ舵、補助ロケット停止
と同時に上げ舵を取るように」、との注意をメモにして飛行の立会人に渡し
たと言う。 高岡中佐にはその内容が伝わっていなかったようだ。
ともかく橘花の回収作業は続けられたが、戦機は次の飛翔の機会を許して
はくれなかった。
橘花は特攻機だったのか?
と言うのは、よく見かける見出しである。
おそらく今後も細々とその論議が、どこかの紙面で続いていく事だろう。
私なりの結論では橘花は特攻機ではない。 橘花は純粋なジェット戦闘機、
あるいはジェット攻撃機であり、特攻機ではない。
特攻機となったとしたら、それは使用者側の問題であり橘花の設計や生産
段階では想定されていない運用方法である。
ゼロ戦は最後は特攻機と化したが、設計段階から特攻機として設計された
訳ではない。 それと同じではないかと私自身は結論する。
橘花の戦闘力を推測する。
兄貴分のMe262と、単純に比較して橘花の戦闘力を推測すると、
エンジン推力が900kg双発のMe262に対して、橘花は475kg双発
と分が悪い。 全備重量はMe262の6.4tに対して、橘花は4.3t。
すこし軽いものの、翼面積との比率である翼面加重を見てみると、
機体が比較的大型(と言ってもジェット機としては小さい方)なMe262の
290kg/m程に対して、Me262よりも小型の橘花は翼面積も小さいので
326kg/mにもなってしまう。
速度が命のジェット機だが、全備重量で両機が旋回戦に入ったとしたらこれ
また橘花は分が悪い。 機体の大きさ、全備重量の大きさは、そのまま航続
距離の差にも現れており、足が短か過ぎると評判(?)のMe262よりも更に
橘花の足は短い。 戦闘機動時の燃料消費を考えれば、戦闘出撃は正味
30分ほど有るか無いかであろう。
馬力勝負で言えば、設計最高速度時で5700馬力対2400馬力。
倍以上の差が付いている。
これでは橘花はレシプロ機にすらかなわない事になってしまう。
ヨーロッパ戦線でP51やP47は、急降下してではあるがMe262を追い詰め
るほどの速度を出すのである。
残念ながら橘花が次々と量産ラインに乗ったとしても、このままでは戦闘力は
無いに等しい仇花となったであろう。
たら・れば・もしも、の話ではあるが、Me262と同じJumo004エンジンを
橘花が双発で装備した上で、重量や抵抗の増加、翼面積の変更などが無け
れば、最高速度は900km/hを超えていたに違いない。
橘花もまたエンジンに泣いたのである。
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