北欧2



およそ当時のフィンランドが入手できる戦闘機としては
メルスは最高の機材であろう。 バッファローとの交代が
進み、新設も含み各隊がメルスに機種更新していった。
最終的にMe109Gは162機がフィンランド空軍に
引き渡された。 162機。
対するソ連はレンドリースの戦闘機だけでも1万機以上。
自国生産の戦闘機合計3万機以上が東部戦線に布陣。
ほとんどがドイツを目標にしていたとは言え、その全兵力
の中の200分の1が襲い掛かってくれば、機数では
フィンランド空軍を凌いでしまうのである。
しかも、さすがに戦争終盤となるとソ連パイロットの質も
それなりの上昇を見せている。
フィンランドにとっては不利な材料が重なっていく。


2機だけ供給された写真偵察機Me109G8の1機。
本機の写真機は撤去され、戦闘機として運用された。


1943年6月、ソ連の大攻勢が始まる。
1500機以上のソ連機が地上軍の上空を援護する。
北欧の夏、昼は長い、と言うより白夜だ。 夜が無い。
24時間飛行できるコンディションは、小兵力に対して
圧倒的に不利だ。
メルスは戦いながらも後退を余儀なくされる。
冬戦争でソ連に奪われ、継続戦争序盤で取り戻した
古都ビープリーをまたしても失陥。 以後フィンランドの
手に戻ることは無かった。
機体性能的に互角、パイロットの錬度では格段に優る。
しかし兵力が100分の1とあっては、たとえ10:1の
撃墜比を誇ってもなかなか戦勢は良くならない。

1944年9月4日、フィンランドは連合軍との休戦協定
を結ぶ。 場所は因縁浅からぬ国の首都モスクワ。
連合軍はフィンランドを占領せず、連合軍参加国として
扱うので北欧のドイツを攻撃してくれと言う。
また、戦争中確保していた多くの自国地域の割譲を余儀
なくされた。 戦場で守り抜いた自国領土は、和平交渉
の場でソ連に奪われてしまう。
やむなくフィンランドはその条件を飲んだ。
大きな譲歩と引き換えにではあるが、かくして再びソ連に
よるフィンランド全土占領の目標は頓挫した。 


休戦直後、列線に並ぶメルス。 これからはドイツ軍が相手になる。

ほどなくドイツ軍は北欧よりも大事な自国を守る為に去っていく。
10月に始まった対ドイツ掃討戦も、ノルウェーのフィヨルドに
潜んでいたテルピッツが11月に撃沈されると共に下火になった。

この後、あまりの活躍ぶりに危険視された空軍の厳しい軍備制限。
また、連合軍の一部として扱われたにもかかわらず賠償金の支払
いを求められる事になる。
しかしそれでも、ようやくフィンランドに平和が訪れようとしていた。

冬戦争、継続戦争、と2つの大国相手の戦争を戦い抜き、様々な
損失と引き換えにではあるが、とにもかくにも国の独立は守った。
その原動力はD−21やブルーステル、メルスを駆ったパイロット達
が屈する事無く自国上空を守り抜いたからで、バトルオブブリテン
と並び、「本土防空戦」を勝利に導いた戦史と言えよう。



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