大和郡山市医師会広報指定席
クリニック犬
柿崎俊雄先生



    開院して間もない頃、患者さんから仔犬の貰い手を探してほしいと頼まれた。犬種はブラックタンのミニチュアダックス(オス)。予定していた引き取り手の都合が悪くなったとのことだ。  片手にひょいと乗るくらいの小さな仔犬で、短い鼻とまん丸の大きな目で何とも愛くるしい表情でじーっと見つめている。これぞ運命的な出会いというのか!ビビッと全身に電気が走り、“うちで貰います”と即答してしまった(アイフルのコマーシャルに出てくるチワワのくーちゃんと同じ状況だ。)直感的に“はこ丸”と名付けた(意味は全くない)。    

元々、我が家ではレッドのミニチュアダックス親子を4匹飼っており、犬の世話は、トイレの始末、餌の準備、散歩、入浴、喧嘩の仲裁と手がかかって大変なのだが、“4匹も5匹もいっしょか”と勝手に納得して飼う事にした。日々寝起きを共にしていると(本当に犬達と一緒に床で雑魚寝をしている)家族同然で、仕事で疲れて帰ってきても無邪気にじゃれついてくる彼らの顔を見ると大変癒される。患者さんにも同様の癒しを与えられるようにとの思いで、彼らにちなんでクリニックのロゴマークを“犬”にした。ところが、これがどうも動物病院と間違われやすいようで、犬に関する電話での問い合わせがちょこちょこあり、実際に犬の患者さんを受付まで連れて来られた事も2回程ある。かくして、我が家でのはこ丸の生活が始まったが、昼間、小さなはこ丸を他の犬達と一緒にしておくのが不安だったので、大きくなるまでクリニックに連れてくることにした。はこ丸はすぐにスタッフや患者さんの人気者になった。  

彼の日課は、朝一緒に出勤すると、まずユニフォームに着替え、彼の縄張りである院内を1周回って点検し、その後、受付にある書類用三段ボックスの一階(ここが彼の居住区である)で午前中の仕事である“睡眠”に入る。冬場は冷えるので受付嬢の足元の保温マットに移動している。きっちり午前11時になると起きてきて(彼の腹時計はロレックスに負けないくらい正確である)、ストレッチをした後、交代で食事に上がるスタッフに付いて行ってお弁当のおこぼれに与る。午後からは再度、お昼寝に入り、夕方は郵便物を取りにお散歩に出かける。夜診では、暇な時にスタッフが掃除をするのに付いて回っている。当然、衛生面のことを考えて診療エリアには入れないが、診療時間中に待合で犬好きの患者さんの接待をすることもある。夜9時頃、仕事が終わって帰宅すると、玄関で待ちわびた4匹の先輩犬の熱烈な歓迎を受ける。(ほとんど袋だたき状態である)はこ丸は、クリニック犬であることを自覚しているのか、クリニックではおっとりしたおとなしい犬として振舞っているが、家ではやんちゃなわんぱく犬で、他の犬にちょっかいをだして全速力で走り回っている。  

1歳を過ぎた頃、別の患者さんのミニチュアダックスのお婿さんにと希望され、2週間ほど“種馬”ならぬ“種犬”としてお泊まりしてきた。無事、大役を果たして帰ってきたはこ丸は、何となく胸を張って自慢げに見えた。残念ながら1匹しか生まれなかったが、先日、生後2ケ月くらいの仔犬を見せにきて下さった。大きさこそ違うが、顔つき・模様が瓜二つな仔犬を見ていると、これぞDNA!と生命の神秘を感じた。来年になったら、また別の出張お婿さんの話も出てきている。  

開院してまだ日は浅いが、犬の取り持つ縁で人の輪、犬の輪が少しづつ広がってくるのは微笑ましいことだ。私もはこ丸に負けないように患者さんの輪を広げて行こうと思う今日この頃である。


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