大和郡山市医師会広報指定席
文楽に魅せられて
大坂幸子先生



昨年の秋から国立文楽劇場に足しげく通っています。橋下大阪市長の補助金カット問題で話題になっていたことで興味を持ち、大好きな作家三浦しをん氏に「仏果を得ず」(氏も文楽の大ファンです)を読んで直ぐに観劇に出かけました。この私に理解できるのかと疑心暗鬼だったのですが、予想に反し初回からすっかり文楽(人形浄瑠璃)の全てに心酔してしまいました。以来友人、知人に文楽鑑賞を強く勧めているところですが、この誌面をお借りして文楽の魅力を皆さまにも是非ご紹介させてください。

文楽(人形浄瑠璃)は太夫と三味線と人形遣いで構成されています。人形は三人の人形遣いが頭、右手、左手、足を分担し操ります。不思議なぐらいに息がぴったりあっていて人間そのもののようにしなやかに、コミカルに、感情のこもった動きをします。口が動く人形もありますが、もちろん人形ですので顔の筋肉が動くわけもなく瞬目もしないのに、笑ったり泣いたり怒ったり悲しんだりと様々な表情を表現します。役柄によって選ばれた「頭」に人形遣いが一体一体丁寧に着付けをし、補修や管理もされます。特にお姫さまの衣装は美しく人形を見るだけでも心躍ります。

浄瑠璃を語るのは太夫です。多くの場合、一人の太夫が一場の登場人物の全てを一人で演じます。お爺ちゃんもお母さんも色男も御姫さまも幼子まで一人で!です。汚いだみ声の男性(人間国宝の竹本住大夫さんは昨年脳梗塞で倒れられてから見事に復帰されました。なんと88歳です。)がかわいい娘さんも演じてしまうのですが、違和感なく、正に愛らしい娘さんそのものです。言い回しや抑揚だけで登場人物の様々な感情や隠れた陰謀、下心、恋心、時代背景、複雑怪奇な人間関係まで表現してしまいます。ストーリーは「え?なんでそうなるの?」と正直なところ理解に苦しむ展開が多々あるのですが(とにかく人があっさり死にます)、それはそれで江戸時代の庶民がどのように時代を感じ、生きていたかが伝わってきて興味深く、馬鹿馬鹿しさにも味があって楽しく物語に入れます。(文楽は支配階級である武士ではない一般庶民が生んだ娯楽として発展、完成しました。)

ここに三味線の音色が絡まってさらに深みを増します。三味線の音のみで場の状況や登場人物の感情が表現されます。基本的には一人の奏者ですが、演目によっては数名の演者が壮大な演奏を聞かせてくれます。音色だけで、楽しくなったり泣けて来たりと心を揺さぶられ、自然と気持ちが昂ります。三味線一本で音色の強弱や音階、テンポ、様々な技巧を駆使し物語を奏でる様は圧巻です。

と、このようにどっぷりと文楽に魅せられ、毎回次回公演を首を長くして待ち焦がれています。一つ難を言えば、公演時間が非常に長いことぐらいでしょうか。一公演が4時間ほどあり、休憩時間に急いで食事を済ませたり、お尻が少々悲鳴を上げたり、贖いきれない睡魔に襲われたりします。でも、長時間の鑑賞時間に比べてリーズナブルな料金設定はお得感満載!ですし、難解な語りもイヤホンガイドを使用すれば初回から十分に理解が可能です。

拙い紹介内容ですが、興味を持たれた方は是非「国立文楽劇場」に足を運んでください。インターネットで簡単にチケットが購入できます。江戸時代初期から続く大阪が生んだ世界に誇れる伝統芸能(第一回ユネスコ無形文化遺産登録)がもっと世間に周知され、多くの方に鑑賞していただき、世界に認められ、国民に大切に守られ、次代に継承され、さらに発展することを願って。(補助金カットなんてとんでもない。国を上げて保護するべきです。)次回公演が楽しみです!


当ページへの御意見・御質問は下記にどうぞ。
gfish@nara.med.or.jp

表紙に戻る/指定席目次