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5〜6月頃に良い香りのする白い花をつけたみかんの果樹は、8月になると緑色の果実が大きくなり始める。普通の畑で育ったみかんはこの季節ゴルフボールより小さいくらいの大きさで、まだまだ食べられる状態ではない。みかん農家では、8月には摘果(てっか)という作業をする。いわゆる間引きで、木になった果実のうち小さなもの、出来の悪そうなものをちぎって捨て、残った果実を大きく育てる。小中学校の夏休みには私もこの作業に駆り出されていたのだが、炎天下の作業は本当につらかった。昔は早生みかんといっても10月に食べられればよいほうで、運動会のおやつは決まってみかんで、まだ緑色の部分が多く、すっぱさも残っていた。それに比べるとハウスみかんはきれいに色づいており、味も甘くて美味しい。
まったく別物にさえ思える普通のみかんとハウスみかん、どちらも同じ温州みかんという品種である。私が子供の頃、夏みかん、八朔、ネーブルオレンジなどは「雑柑」−その他大勢という意味−と呼ばれていた。すなわち、みかんといえば温州みかんであった。温州という地名が中国にあることから、起源は中国と思っていたが、実は鹿児島県が発祥の地であるとの説が有力らしい。和歌山で優秀な品種が生まれ、気候や土地が適して名産品となった。紀伊国屋文左衛門がみかんを江戸に運んで巨万の富を築いた話は有名だ。戦後みかんの市場価格が高く農家が潤っていた時代には「黄色いダイヤ」と呼ばれ、景気のいい果実の代表であった。ところが、いまは外国産オレンジの輸入により値崩れして、高級感とは程遠い果物になってしまった。逆にいうとより大衆的になったというべきかもしれない。日本人が消費する果物のトップはずっとみかんであったが、いまは王座をバナナに譲ったとのデータがある。和歌山県の出身者としては少し口惜しい感じがする。
最後に農家流のみかんの食べ方を紹介したい。みかんはかごに盛られたものから選んで食べるのだが、その色合い、形、重さ、皮の感触などで美味しさを判断する。自分自身が目利きになるわけで、ここから楽しみが始まる。お目当ての果実を手にとったら、まず縦に二つに割る。みかんの香りの多くは皮の部分にあり、一気に皮を割くことで、香りがたつのを楽しむ。同時に果実の断面の鮮やかさを視覚的に楽しむことができる。
次に白い甘皮を剥ぎ取る。ヘタの部分からとると比較的スムーズにとれるが、全部取り除く必要はない。少々残っていても、軽い苦味がアクセントになる。時間をかけすぎるとみかんが柔らかくなってしまい、食味が損なわれてしまう。みかんの食感はプリッとしていることが重要なのである。みかんの「ふくろ」はとらずにそのまま食べるのが原則である。「ふくろ」が気になって出さないといけないみかんはすでに美味しいみかんとは言えない。一口にいくつの「ふくろ」を入れるのかも考慮が必要である。甘みや酸味をきちんと味わうのなら1個ずつだが、ジューシーなのど越しを楽しむには2〜3個を一気に食するのがよい。
以上のような話は家庭でしてもほとんど聞いてもらえない。息子や娘に「またか」という顔をされるのが落ちである。温州みかんと同様に父親というものは主役の座から滑り落ちてしまったのかもしれない。