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私が今まで行ったところで最も感動したところは?と聞かれれば、日本なら必ずその中には山口の秋吉台が含まれるでしょう。秋吉台に足を向けたのは、子供のわがままからでした。今はもう大学生の息子が、小学校の時の修学旅行先が秋吉台だったのです。彼が良かった、もう一度絶対行くんだと、ことあるごとに言うものですから、旅行好きだった、今は亡き母が、じゃあ来年もう一度行こうねと笑っていたのを、今でも覚えています。
しかし、母は息子が中学に入った矢先に亡くなり、計画していた秋吉台行きは流れてしまいました。だからこそ、より一層私に強い印象が残っているのかもしれません。次の年、秋吉台に足を運んだ時、そこに母の姿が無いことに寂しさを覚えながらも、その見渡す限りの草原の草と大地の匂い、そして緋色に染まる空の美しさに心打たれました。鍾乳洞もまた感慨深く、その涼やかな風が疲れをさわやかに流してくれました。私は息子のもう一度行きたいという言葉に激しく同意してしまいました。私の部屋には、そのときの澄みきった空と共に秋吉台の草原を写した写真が、引き伸ばされて今でも壁に貼り付けてあります。
それから2年、つまり都合3回ほど夏のお盆に秋吉台に行ったかと思います。さすがにそれほど行くと、息子が飽きてしまったようで、また別のところに行ったりしましたが、やがて息子が海外に一人で行ってしまうようになり、私も泊がけでどこかに、というような旅行をすることは無くなりました。正直に言うのは恥ずかしいことなのですが、ふらっとどこかに行って楽しんでくるといった、そういう旅行に出る元気が無くなってしまったのかもしれません。日頃、なかなかゆったりとした時間を息子と過せないということもありまして、私にとっての旅行とは、息子とつまらないことを話しながら互いに気を抜き、風景を楽しみ、美味しいものを頂く、といったものだったのだろうと思います。ここ数年は、私は息子が海外で撮った写真の数々を見せてもらい、どんなところに行ってきたのかどんな体験をしてきたのか、という話を聞くことが楽しみになっていました。
つい先日、中学時代の恩師を迎えての同窓会に出席しました。そこでかつての同級生は皆、バイタリティにあふれており、頻繁にあちらこちらに行っているようでした。恩師に、最近はどんなところに旅行したの?と聞かれ、全然していないと答えると、早く老けるわよ、と何ともショッキングな言葉を頂きました。この夏、二日ほど時間が取れれば、ふらりと久しぶりに秋吉台に足を運び、あの空気の匂いを味わいながら、ゆったり疲れを落としてみようかなと思われた一言でした。