名機の弱点を見る


・P51シリーズ

P51シリーズはC型まで(上)とD型以降(下)で大きく外見が違っている。
その点をまず確認しておきたい。

さて正直なところ、P51の弱点を探し出す事は、非常に難しい。
どこをどう探しても(特にD型以降は)欠点らしい欠点が見つからない。
しかし、取り上げようとする以上、重箱の隅をつつくようなケチを付けて
みたいと思う。

・初期のもたつき。
今から見れば、P51の生まれた経緯は、全く信じられない。
P51は、当時は零細航空メーカーであったノースアメリカン社を
イギリス軍の担当者が他社の航空機のノックダウン生産を依頼しに
来た事が、開発の始まりであった。
その時にノースアメリカン社は逆提案をして、現用機を大きく上回る
性能の新型機を120日以内に「納品」すると言う条件を出した。
当時アメリカ軍は、ノースアメリカン社には全く注目していなかった。
イギリス軍担当者も、信じられない逆提案を承諾し、117日が経過した。
出来上がった試作機がイギリスに送られた。 これが後の名機P51の
誕生となるのである。
ところでこの時代のアメリカ軍は、「海外向け新型機を開発した際は、必ず
軍に2機を譲渡する事」とした法制を制定していた。
当然、P51の試作機もアメリカ軍に引き渡されていた。
ところがこの試作機は、広大な試験場の片隅に放置されていたのである。
結局、イギリス軍が独自にロールスロイス・マーリン・エンジンに換装した
「ムスタング」が素晴らしい性能を発揮すると、初めてアメリカ軍は、放置
されていた試作機を引っぱり出してきたのである。
P51自体の弱点ではないが、このもたつきはP51にとって、少なからず
マイナスになっているハズである。

・初期型P51の高度性能不足
イギリスに送られた初期型P51は、装備されていたエンジンの性能が良くなく
特に4000m以上に高度が上がると、極端にその性能が悪化した。
3000m程度の高度ならドイツ軍のどの戦闘機とも互角に渡り合えたが、
少し高度が上がるとすぐに性能が低下した。
それゆえにP51は、最初、低高度用の戦闘爆撃機として運用されていた。
イギリス軍がエンジンを元々のアリソン・エンジンから、マーリン・エンジンに
換装して初めて、秘めた性能を十全に発揮できるようになったのである。
世界最高の液冷エンジンと言われていたマーリン・エンジンがなければ、P51は
平凡な飛行機として終わったかも知れない。

・C型までの視界不良とD型の涙滴風防
P51はC型までマルコムフードと呼ばれるファストバック式の風防を採用
していた。 これは日本の3式戦やMe109なども採用している方式で、
空気力学的には非常に優れた機体形状となっている。
但し、見ての通り、後方への視界は極度に悪くなる。
これは空戦で旋回戦闘になった時に少なからず、マイナスとなる。
だからこそD型以降は完全な涙滴風防に改良されているのである。
さて視界が良くなった涙滴風防だが、空力的に見ればファストバック式に比べて
抵抗が大きくなる。 また、1発の被弾でも大きな風防をまるごと全て交換する
必要がある。 その上、生産には高度な成形技術も必要になる。
一長一短(少々「短」が少ないか?)であるが、持てる国ならではの風防である。
余談だがP51の風防は後にF86セイバーまで流用される事になる。

次項

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