DB601


1935年にDB600から発展したDB601は、ドイツ空軍の主力Me109に採用さ
れ、その他にも多くのドイツ機を支えた。 枢軸国戦闘機にも採用され、日本の三式戦や彗
星艦爆に搭載された。 イタリアでは、見掛けすらも高性能が感じられないMc200の空
冷エンジンを液冷のDB601に換装してMc202フォルゴーレを誕生させ、一気に性能
が向上した。



Me109の機首に取り付けられているDB601A

DB601の注目点はいくつかあり、一番大きな点がインジェクション式燃料噴射を使っ
ている点だろう。 DB601が誕生した頃のエンジンのほとんどはキャブレター(気化
器)式という方式を使用していた。
キャブレター式は、あらかじめ燃料と空気を混ぜて混合気を作り、それを燃焼室で点火し
エネルギーを取り出す方式であるが、インジェクション式は燃料に高い圧力をかけ、燃焼
室内に直接噴射する方式である。 霧吹きのようなものが想像できる。
現在では一般のスクーター用エンジンですらフューエルインジェクションや直接噴射(直
噴式)と言われるインジェクション式が主で、キャブレター式は利用範囲が少なくなって
いる。 近年の燃費向上には、このインジェクション式の恩恵によるところも多い。


現在も残るインジェクションポンプ。 今でも一流のボッシュ社が手掛けたPZ12HM100
日本ではライセンス生産時、このポンプだけはボッシュ社からのライセンスが下りず、完
成品輸入を求めてきた。 戦時供給体制に不安があった日本は、当初海軍向けの個体には
無断コピーした物が、次いで三菱製の国産品が取り付けられた。 最終的に陸軍用もそれ
にならい、陸海軍共に三菱製が取付られていった。

当時、世界最高のエンジンと呼ばれたロールスロイス・マーリンはキャブレター式を採用
しており、ほぼ同時期に登場したDB601の先進性が伺える。
実戦では、急速に機首を下げるなど、機体にマイナスGがかかると、キャブレター式は混
合気の調整が燃料過多になり、エンジンが息をつくような状態になる事があった。
しかしインジェクション式にはそのような事が無かった。 どのような姿勢や荷重であっ
てもエンジンは正常に作動した。
空戦ではこの差は大きい。 上空から敵機に被られた時、咄嗟に操縦桿を押し降下に入れ
た時に一瞬エンジンが息をつくというのでは、文字通り命にかかわると想像できる。
また、各気筒への燃料配分の均一化、燃料氷結が無い事、良好な始動性・加速性、コンパ
クトな装置規模、などキャブレター式に比べて明らかに優れている。
他国も空冷星型、液冷直列に関わらずキャブレター式がほとんどだったが、気筒位置によ
る噴射方向の改善や、流向制御用の小さなベーンを用いるなどある程度改善は進んだ。
しかし、インジェクション式はそういった改善を必要としなかった事も、戦時の開発リソ
ースの振り分けと言う面から見れば大成功と言えるだろう。

惜しむらくは戦争の推移と共に、ドイツは燃料の枯渇・低品質化を免れる事が出来ず、連
合国側に供与されるアメリカ産の大量の高オクタン価ガソリンには抗しきれなかった。



Me109F DB601N及びEを装備した型。 プロペラ軸内のモーターカノンはこ
のF型でようやく実用化した。 しかし翼内武装が全廃され、不評な面もあった。
G型以降はボアアップした後継エンジンのDB605を装備するようになった。


Mc202フォルゴーレ。 空冷エンジン機だったMc200をモディファイし、DB6
01に合わせて機首を延長した。 軽戦至上主義のイタリアパイロット達の要望だったM
C200の開放風防も遂に密閉風防となった。


三式戦飛燕。 Me109のコピーと揶揄されたが、エンジン以外は純日本製。
日本の工作精度が追い付かず、ライセンス生産されたハ40は不具合が続出。 
特にクランクシャフトの折損は、部材品質の低下とあいまって後々まで尾を引いた。
そういう所からも、オリジナルのDB601の完成度の高さがうかがえる。


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